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2012年5月18日金曜日

『性倒錯─様々な性のかたち』ジェラール・ボネ(PART4)

part4です。このシリーズはそろそろこの辺にしておきます。


露出症
・露出症は他の殆どの倒錯と同じように、同類の行為に対して排他的である。ヌーディズムや挑発的な見せ物を歓迎しない。

・1900年、ガルニエの露出症の定義
「露出症とは、執拗で衝動的な性倒錯であり、時間と場所をある程度決めた上で、公衆の面前で弛緩状態にある性器を卑猥で挑発的なやり方をとらずに見せびらかしたいという欲求を特徴とする。この行動の中には、露出症患者のあらゆる性的食指が凝縮されているのであるが、行動に移すことによって、頭から離れることの無かった執拗な戦いに終わりを告げ、やがて幕が閉じられることになる。露出症者は、自分の性器を見せびらかすことによって得られた心的反応によってしか快楽を得ることができない。」

露出症の様々な形(エイガー)
・非直接的な露出:手紙やメールなどでみだらな写真を送付する
・何かを仲介させる方法:自分やパートナーの私的な写真を作成し、ネットやビデオ等で広める。
・愛の営みの露出:車の中、公園、海岸などで営みを見せる方法。
・自分の子供への露出:リベラリズムの名の下で見せる方法。
・社会的露出:人生において成功するために、何としてでも人から注目される必要がある場合。深層に性的な露出欲を同じ程度持ち合わせており、ポルノ制作を助長するものである。

病的症状

①仕草:性器を見せつける方法は様々である。それは、行為であるサディズム、実践であるマゾヒズムとは異なり、人類学の範疇に分類される。これらの仕草には、わいせつ、侮辱、破廉恥といった意味が内包されている。

③他人の視線を集めること:他人の眼差しこそが、露出症者の問題系の中心にある。M・ボスはそれを眼差しのコミュニケーションと呼び、ラカンはそこに主体が自分のものにしようとしている現実的対象を見出している。露出症者は、見られれば見られるほど、また、それがどんなやり方であったとしても、自分の術作に興味を持ってもらえればもらえるほど、行為を大げさにする傾向がある。無関心な反応は、彼等を不安で無防備な状態にさせるばかりか、抑うつ状態に陥らせることもある。そのため、しばしば全く無意識のうちに前もって入念に準備しており、自分のやり方にこだわりがある。

④予め細部に渡り明確にされた環境の下で:先に述べた殆どの倒錯行為の様に、露出症者は細かく状況設定をしたシナリオを用意している。彼らの仕草から無意識の構成物を見つけることが出来る。
場所:教会、地下鉄、映画館、広場など。反対に、トイレや灌漑路、車中など人気のない場所が選ばれる場合もある。
時間:早朝、日暮れ、深夜。時間の選択には何らかの意味がある。
道具:新聞、タオル、スイング式の戸等の道具や、マント、レインコート、帽子など洋服を利用することがある。これにより、驚きの効果を演出したり、隠したり見せたりというゲームの支配者になることが出来る。
対象者:女性の場合が多い。子供や男性の場合もある。一人あるいは少人数の集団が狙われる。何らかの無意識的な基準、感受性によって選択される。
目撃者:露出症の物語の中で、権力を象徴する目撃者が重要な役割を果たしている。刑罰を求める露出症者は、目撃者に挑戦し、その人物を窮地に陥れたり、場合によっては窮地から逃れさせようとしたりする。その意味で、露出症は典型的な目標倒錯である。
精神分析では、初回の露出には特別な注意が向けられる。初回の露出は最も重要な意味を持っている。

・フロイトの指摘
①「露出症者は他人の性器を見る為に、自らの性器を露出するのである」『性欲論三編』
②「露出症は一次ナルシシズムの問題であると述べている。ファルスを所有していると確信を得るという、それだけの目的の為に、眼差している主体を単純に置換しているのである。」『メタサイコロジー』
③「露出は去勢不安に対するファリックな再確認である。露出の対象者は、彼らの不安の原因を具体化するために存在し、目撃者は自分の能力を証明するために使われる。」『メドゥーサの頭』


窃視症
1.症状
①仕草
 窃視症者は動かず、同じ姿勢を維持し集中するため、それと分かる。

②見せていないものを見ようとする
 彼等はプライベートな時間(陰部の手入れの最中、生理的欲求の発現、性的快楽を求めているときなど)を捕まえようとする。その快楽の本質は「断片への偏執」である。(ヘニング)

③ますます巧妙な方法をとること
 窃視症者は自らの快楽を増大させるための技術や手段に工夫を重ねる。こうした手段は、ファンタズムにおける、能動的視覚過程に対応しており、自分の思い通りに拡大、縮小、出現、消滅が可能である。

2.無意識の意味作用
フロイトに依れば、窃視症は内的暴力性を含む事を運命づけられた編集作用であり、見ることそのものが、内的暴力性を含んでいる。(ゴディバ夫人の例)
・恥をかかせることはしばしば暴力を凌ぐ力を持っている。窃視症者は、この暴力性を自分のものとしている。
・窃視症者は、徹底して、絶対的で、妥協の無い懐疑主義者である。(エスナール)
・今日的な写真芸術は、そのかなりの部分が覗き趣味である。一方、執拗に女性を被写体にして撮っている写真家は、自分の持たない性器を変容して見せようとする露出症者とおなじように、間接的に自分を露出しているようなものである。






服装倒錯

①服装倒錯の諸形態
ストーラーの分類
・異性装…単に異性の衣服を身につけること。生物学的性と心理的性が異なる場合。
・服装倒錯…性行為のときにだけ異性装を行う者。倒錯に属する。
ロゾラートの分類
・異性愛的服装倒錯…フェティシズムに類似する。断続的、熱狂的で、性行為時に限定される場合が多い。
・露出症的服装倒錯…華やかさが重要視され、目撃者が必要とされる。ファリックな母親に自らを同一化している。
・ホモセクシャルな服装倒錯…男性娼婦の場合が多く、誘惑という意味合いが強調されている。
・どの学者も、服装倒錯を同性愛や排他的同性愛とも区別するべきであるとする点では、意見が一致している。

②服装倒錯の意味作用
・サディスティックな行為との類似は、服装倒錯者が犠牲者の衣服を振りかざすことである。犠牲者の衣類は、戦利品の効力をもつ。
・マゾヒストのシナリオと似ている点は、服装倒錯者が犠牲者の役割を演ずる為に犠牲者と同じ衣服を用いてその屈辱を利用することである。
・フェティシズムとは、服装倒錯者が自らの欲望を呼びさまし、隙間の無い感覚を確かなものとするものを身につける点で類似している。これにより、全能の理想化された父親と自分を同一視している。
服装倒錯は以下の2段階の間を揺れ動いている。
・一次同一化…倒錯者が男性と女性のどちらでもありたいとする段階である。想像的に、あらゆる特権と能力を持ち合わせていて、衣服が自分に不足しているものをもたらすとみなされる。
・二次同一化…男性か女性かという選択を命じられる段階である。万能でありたいという欲望から、解剖学上の男女を入れ換えようとする。衣服はその逆転を可能にするものとみなされる。
衣服には、欠けているものを補う、男女の役割を自発的に逆転させるという二重の意味がある。服装倒錯は、人類学的な行動の謎(ファッション、カーニバル・通過儀礼的な仮装)を解き明かすことに役だっている。

③女性の服装倒錯
女性の服装倒錯が性的領域にとどまることは稀である。女性の服装倒錯は「露出症的」である(ロゾラート)。

④古代キリスト教における女性の服装倒錯
例:アンティオキアのペラジー、ビテュニアのマリナ、アレクサンドリアのウジェニー、コンスタンチノープルのアナスタジー、トゥールのパピュラ
・グノーシスの影響を受け、社会の典型と断絶したいという欲望の表れ。つまり、旧約聖書の創世記で描かれている、神が人類の男女を創造した楽園の最初の状態に戻りたいという願望が表現されていた。女性の服装倒錯は、キリスト教が抑圧してきた、キリスト教以前の神話を無意識に行為化している。