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2012年5月12日土曜日

『性倒錯─様々な性のかたち』ジェラール・ボネ(PART3)

前回からの続き。

部分欲動
・4つの要素から構成される。衝迫、器官(口、目、皮膚、肛門など)への備給を伴う源泉、対象、そして目標である。
・衝迫:これは子ども時代の特定の羨望から生じる。倒錯者においては、なんでもない現実の出来事と、極度に抑圧された無意識の要素が不安定な瞬間に出会うことで生じる。したがって、エスのセクシュアリティがまず問題になる。
(※セクシュアリティ=性的特質。性的興味。性を意識させることやもの。)
・源泉:上記の衝迫を処理するために、ある快感や身体の一部が不可欠となったとき、これらの器官を源泉と呼ぶ。
・対象:子供は満足を得る為に、形を変え移動する部分対象を求める。倒錯は本来の性、ファリックな対象、あるいは性的対象へと変化させられた人物によって支配されている。このような仲介者を経ることで、倒錯者はほとんどいつでもオルガスムに達することが可能となり、性器的な性行為を行うことが出来る。
(※ファリック;phallic=陰茎の)
・目標:倒錯者において、倒錯の作用は、ある特定の目標に対して機能する。ここで意味する目標とは、単純な部分的快楽や子供が他者と出会うことで感じる喜びではない。倒錯者の目標は、理想に立ち向かうことであり、相手を逆上させることである。そうすることで、快楽が絶頂に至るのである。したがって、倒錯者は、精神分析に不可欠なもう一つのセクシュアリティの形態である理想的セクシュアリティに重要な点で挑戦している。

臨床的分類
・源泉の倒錯:患者は高まりすぎたリビドー的力動を、源泉あるいは性感帯に固着させ、欲動的セクシュアリティを優先的に機能させる。源泉の倒錯は自発的な行為である。大部分のマゾヒズム(苦痛主義、自傷行為など)や、ある種の同性愛、窃視症がそれに当たる。
・対象の倒錯:ある特定の性的対象に衝迫を集中させることである。この場合、前面に出てくるのは、性器的なセクシュアリティである。対象倒錯は、意識的であっても、無意識的に行われる。フェティシズムや服装倒錯、源泉の倒錯に属さないその他の形態の同性愛、男性の痴漢、女性のニンフォマニアなどがそれに該当する。これらの倒錯は、かなりの患者の意識を拘束しているが、性器的な私生活に限られているため、このタイプの倒錯者がパートナーを無理に自分の嗜好に合わせさせるようなことはない。
・衝迫による倒錯:特定の状況下で衝迫が生じると、全てを根こそぎにするタイプの倒錯。常軌を逸した状態において勝利を収めるのは、エスによるセクシュアリティと、つまり基本的なセクシュアリティである。強迫的倒錯と呼ばれるもので、病的に繰り返される強姦などである。

密閉された分裂
・暴力的倒錯者は、自分の行為を誰にも打ち明けることのできない秘密のものと考えており、そのことが治療への妨げとなっている。無意識における行動は極めて精巧に仕組まれており、患者が殆ど意識していないので、事件化した時に、裁判所が責任能力について検討しなければならないほどである。


欲動、性向、性格
・倒錯の根源である部分欲動は、一般に性向や性格と呼ばれるものの起源である。
・苦痛を無意識に求めるような人格を、道徳的マゾヒズムと呼び、失敗神経症の最たるものである。失敗神経症は、罰を受けることや不幸を感じることで興奮し、絶え間ない精神的苦痛などを必要とするのが特徴である。この無意識に罰や苦痛を求める欲望はどんな人にも存在しており、人間の心理現象の中で最も驚くべきパラドックスである。
・マゾヒスト的性格(ライヒ、ケスタンベルグ):常に不満を抱き、周囲の人間から一貫して拒否される状態が固まってしまっている状態。生まれながらのマゾヒストは、生きる喜びを味わうことが出来ず、病気や災害時にしか真の満足を得ることが出来ない。
・道徳的サディズム:表面上は人類愛的な形をとりながら、他人の苦痛に喜びを見出している。この傾向は、法的、道徳的、宗教的な要求に潜んでいる。
・サディスト的性格:性的にはサディズム的特性が確認されないが、こうした性格が総体的に個人を作り上げている。
・倒錯の場合、倒錯的性向を心の奥で受け入れることが出来ない場合が多い。その場合、倒錯的マゾヒストが、どんな苦痛をも拒絶することはよくある。また、サディストが他人に対して非常に尊敬の念を以って振る舞うことは、更に頻繁に認められることである。
・苦悩や苦痛、屈辱といった感情は、人類の善の体系においても中心的な役目も果たしている。苦痛と屈辱は、特にアイデンティティを確立するための手段になる。禁欲や神秘的経験が、人々のアイデンティティの強化に役立つことは、過去の歴史を見ても明らかである。


サディスティックな倒錯
サディスティックな倒錯者は自分にしか通用しない数多くの習慣や儀式に従って行動している。
フロイトの『性欲論三編』によれば、サディズムは能動的な原初的マゾヒズムに由来している。サディストの狙いは、無意識的に脅威となっている侵害感を他者の身体に植え付けることだが、成功に至ることなく、その行為は反復される。

サディストの行為の儀式化
・フロイト「倒錯を原初的な性的信仰の名残と考えるべきであるとほぼ確信するに至った。その原初的な性的信仰は、セム人にとってはひとつの宗教であった(モロク、アスタルテ信仰)」
・ロジェ・バスディード「人類のあらゆるエネルギーを受け止めて怪物になってしまった母親を殺して、生贄として捧げるという物語の原型であろう」
・環境は念入りに準備され、サディスティックな行為が自発的に計画された犯罪にならないように工夫されている。
・サディストの行為は現在の秩序への挑発的行為であり、理想を具象化したと思われる人を標的とする。

サディストとマゾヒストの特性「ジル・ドゥールズの『マゾッホとサド』」
・サディストは思弁的で論証的能力に優れる。マゾヒストは、弁証法的で想像的能力が豊か。
・サディストは、量的に行為を繰り返す。マゾヒストは、洗練さを増しながら質を高めようとする。
・サディストは、無気力。マゾヒストは、冷淡。
・サディストは、法の上に位置づけたアイロニーを操る。マゾヒストは、ユーモアを使い、アイロニーを嘲笑する。
・サディストは、母親を否定して、父親を重要視する。マゾヒストは、母親を否認しつつ父親を消滅させる
・サディストは、社会制度に依拠する。マゾヒストは、個別の契約事を好む。
(このあたりのサディストとマゾヒストの特性については、私的にもっていたイメージと一致する)


マゾヒスティックな倒錯
・マゾヒストは演出家と主役を兼ねている。「自分が監督を務める映画に出演するとき、最高の演技ができる。(ウッディ・アレン)」
・サディストはしばしば自分の欲求に気づいていないが、マゾヒストは自らの欲求をよく知っている。
・デモンストレーション的な特性:マゾヒストの狙いは、受けた苦痛を忍従や屈辱によって倍加させること。その苦痛と屈辱は、ともに現実であること、可視的であること、コントロール出来ることが必要である。これらの虐待には、目撃者がいることで効果が倍加される。その意味でデモンストレーション的である(テオドール・ライク)。
・マゾヒズムの行為は、身体に危険が及ばない程度にコントロールされており、生命や重要な臓器を危険にさらすようなことは滅多にない。

私見、補足:マゾヒストは、物語によって徐々に必然性を醸成した上での苦痛や屈辱からしか満足を得られない。単なる苦痛や意図せぬ恥辱などは、寧ろ普通の人々よりも強い不快感を覚える。このあたりが、誤解されがち。

性的快感をできる限り引き伸ばす
・苦痛が決められた閾値に達すると、興奮が段階的に高まり、オルガスムが得られる。ストーラーは、これが真のトランスであると述べている。テオドール・ライクは、こうした快感のタイムリミットを先延ばしにしようとする方法を中断因子と呼んでいる。
・マゾヒストの契約:マゾッホが妻ワンダに宛てた有名な契約書がある。マゾヒストの契約の典型的なモデルである。
・マゾヒストは見物人に自らのゲームに参加させ秘密の共有を強いる。見物人に対する軽蔑と自分に屈服させたい欲望を見事に表現している。この観客こそが、テオドール・ライクが性的挑発因子(性的に攻撃的な姿勢)と名付けているものである。マゾヒストのサディズムは手が込んでおり、極めてエロティックである。




2012年4月14日土曜日

『性倒錯─様々な性のかたち』ジェラール・ボネ(PART2)

前回に続き、ボネ著の『性倒錯─様々な性のかたち』の中身を紹介します。
気になった箇所を端的に箇条書きでいきます。
前後の文脈の中でないと意味が分からない文章もあるかと思いますが、
雰囲気だけでも掴んでいただければ。

性倒錯は孤独な快楽
・倒錯者は、自分の作品要素の中に自らの性的特性を組み入れている。
・倒錯は無意識のコードに対応しており、自体愛的な快楽を目指しているので、
 極めて個人的である。それを体験する者にとっても孤独で神秘である。
・倒錯行為は、もともと必然的に排他的になろうとする傾向をもっている。
 倒錯行為が他の形の快感を消していくことで、満足を増していくことも稀ではない。
・倒錯行為は、反復やステレオタイプな形に至ることがあり、
 しばしば表向きの意味作用が失われ、凝り固まってしまうこともある。
 そうすると、主体はますます非合理な方法を強いられてしまう。

性倒錯者は個々に無意識の内奥で、極めて独特な文脈の中に
性的快楽を組み込んでいる。
作り上げたストーリーを演じることが目的化し、
通常の性的快楽すらバイアスとなり、邪魔になることもあるとのこと。


倒錯は遺伝するのか?
・遺伝性は、他の病気より少ない。
・子供に倒錯が見られることは稀である。子供の倒錯では、
 原初的な欲動の活動が問題となっており、大人の倒錯に類似しているが、
 その意味合いは異なっている。(ボネ)

因みに、私は幼児期(3歳前後)に自らの倒錯的傾向を自覚し始めていました。

対象倒錯と目標倒錯
・対象倒錯:性的魅力が「対象」によって優位に発揮されるような人、
      あるいはそのような現実を、性対象倒錯と呼ぶ。
      近親相姦、獣姦、死体愛等、性行為そのものは正常だが、
      対象に倒錯が見受けられる者。
・目標倒錯:窃視症、サディズム等、性衝動を通常の性行為以外の
      行為によって満たすもの。

●対象倒錯の例
・ある種のナルシシズム(1898年;ハヴロック・エリス、ネッケ、ザドガー):
 主体は鏡に向かって自慰することでしか快楽を得ることが出来ない。
 したがって、この場合の対象は自分自身であり、様々な形で実践可能である
 (写真、録音等)。
・死体愛:精神薄弱や精神病が原因の場合もある。もっと控え目な形では、
     葬式で興奮したり、危篤状態のパートナーに病的な快感を
     覚えたりすることがある。こうした快楽が成立するのは、
     あらゆる離別の彼方に、無意識的な母への固着が
     存在するからである(ポー、ボードレール、モラヴィアなどの文学を参照)。
     ヴァンピリズム(吸血症)についても同様。
・獣姦:父親と理想化された動物の間には古典的な代理関係が存在することが
    知られている。

フロイトの転機
フロイトは倒錯者と正常者の間の高い壁をあえて乗り越えようとした。
それは、倒錯者が世界的に共有された産物であり、
必ずしも病的なものではないことを示す為である。
倒錯は性的無意識に依拠している。
つまり、倒錯はもはやアウトサイダーのための表現ではなく、
最も基本的な様相の一つと考えられるようになった。

フロイトから読み取れる3つのセクシュアリティ
①自発的、暗黙的なもので、言語の中に埋め込まれている。
 したがって、これが依拠するところは文化的なものである。
 これは基本的に、理想的セクシュアリティとの関連で練り上げられる。
②倒錯を性器的セクシュアリティと関連付ける考え方。
③倒錯を前性器的な欲動的セクシュアリティに関連付ける考え方。
 つまり、人間のメンタリティを奥底で組織化している
 幼児性欲と倒錯とを関連付けようという考え方。

倒錯のネーミングの由来
●有名な地名に由来する表現
・ソドム:ソドミーは禁じられた不浄の身体の場という意味から、
     肛門性交を意味するようになった。
・レスボス:アテネのギリシア人作家が、同性愛者一般の故障として
      レズビアンという言葉を用いたのが始まり。
      詩人サッポー(紀元前7~6世紀)は宗教的女性結社の指導者で、
      少女の教育を担っていた。彼女の作品の多くは女性の魅力を
      褒めたたえるもので、嘲笑の的であった。
      サッポーがレスボス島の出身であったことから、
      アテネでは「レズビアン」と呼ばれ、やがて同様の自由を要求する
      女性すべてにこのことばが用いられるようになった。
     「サフィズム的な快楽」と呼ばれることもある。
      因みに、レスボスは男の神の名前。

●アンチ・ヒーローの名前に由来する表現
オナン:ユダヤ・キリスト教において、ソドムと同じくらい不名誉な名前。
    聖書の創世記に登場する人物。死んだ兄の代わりに
    子孫を残すべく兄嫁と結婚させられたが、当時の法に則り
    子供が出来れば、父の遺産が自分のものとならないのを知っていたので、
    「子種を地面に流した」とされる。社会集団がセクシュアリティに
    割り当てた目的に逆らったという理由で、彼は倒錯とみなされた。
    オナニズムはマスターベーションの類似語となり、
    多くの倒錯において重要な位置を占める。
    勿論、この行為自体は倒錯に当たらない。

●半神の名前に由来する表現
時間や空間の隔たりを飛び越えて、快楽至上主義の古代ギリシア・ローマの
異教文明の半神を持ち出すことによって、倒錯を多少なりとも
不気味な中間存在として位置付けることが出来る。

・ニンフ:ニンフォマニアも同様である。この古い言葉(1732年)は
     ギリシア語を起源としている。
     マニア(躁病)が想起されるが、魅了という意味に重点が置かれている。
     女性の性欲が亢進している状態を表す。(クラフト=エビング)
・サテュロス:ギリシア神話に出てくる半人半獣の神。常時勃起した陰茎を持つ。
       サテュリアシス(男子色情症)は古代医学の用語に属する。
       しばしば、色情症に留まらず男性の倒錯一般を表すのに使われる。
       倒錯に神的な由来を与えることは、われわれが無意識の側にあるものに、
       より接近しやすいという利点がある。




2012年2月25日土曜日

『性倒錯─様々な性のかたち』ジェラール・ボネ

ジェラール・ボネの『性倒錯』を読みました。

フロイト、クラフト=エビング、ラカン、マニャンなど
過去の偉大な心理学者の研究を引用しながら、
サディズム、マゾヒズム、露出症、窃視症、服装倒錯など
性倒錯の中では比較的メジャーな倒錯について書いているもの。

コンパクトによくまとまっていて、
「性倒錯とは」ということを改めて知るにはよい本。

性倒錯について知ることは、
単に奇妙な性欲を持っている人について知ることではない。
それは特殊な性質ではあるが、
人類のある割合で共通する人間心理であり、
心の深奥を知る手掛かりとなるものなのです。

今後何回かに分けてこの本の内容の紹介をするとともに、
私の解釈や考えを書いていきます。

性倒錯─様々な性のかたち (文庫クセジュ) [新書] / ジェラール ボネ (著); 西尾 彰泰, 守谷 てるみ (翻訳); 白水社 (刊)